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神戸地方裁判所姫路支部 昭和30年(ヨ)164号 判決

申請人 増田忠雄 外八名

被申請人 藤原菊二

主文

被申請人が昭和三十年八月二十二日申請人等に対しなした解雇の意思表示はその効力を停止する。

被申請人は申請人等に対し各金一万円を仮りに支払うべし。

申請人等のその余の申請を棄却する。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(註、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は、「被申請人が昭和三十年八月二十二日申請人等に対しなした解雇の意思表示はその効力を停止する。被申請人は申請人等に対し昭和三十年九月二十六日から本案判決に至るまで毎月十五日及び末日に別紙目録支払額欄記載の通り仮りに支払うべし。」との判決を求め、その理由として、

「(一) 申請人等は西播地区土建労働者を以て組織せられている姫路土建労働組合の組合員にして、被申請人は、土建業者であるところ、被申請人は、昭和三十年八月二十二日、被申請人に期間の定なく雇傭されている申請人等九名及び申請外戸田道夫、戸田武夫、木村清の三名(いずれも姫路土建労働組合の組合員)合計十二名(以下本件解雇十二名と略称する)に対し、昭和三十年九月二十一日限り解雇する旨の意思表示(以下本件解雇と略称する。)をした。

(二) しかし本件解雇はつぎの理由によつて無効である。

(1)  本件解雇十二名は、本件解雇当時、被申請人に雇傭されている労働者約九十名中、姫路土建労働組合の組合員である者の全部であるが、本件解雇は、本件解雇十二名が被申請人に対し賃金値上の要求をした直後、本件解雇十二名が労働組合員であること、本件解雇十二名が賃金値上の要求という労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、なされたものであるから、不当労働行為たる解雇である。

(2)  (イ) 姫路土建労働組合は、被申請人との間に、昭和三十年五月十六日、労働協約を締結し、右労働協約には、使用者が組合員を解雇する場合には、事前に組合と協議して決定しなければならない旨の条項がある。

(ロ) 本件解雇は、組合と協議せずに全く一方的になされたものであるから、前記労働協約の条項に違反するものである。

(3)  本件解雇は、本件解雇十二名のなした賃金値上の要求が、被申請人の気にいらないために、なされたものであるから、解雇権の濫用である。

(三) 申請人等の本件解雇当時の平均賃金は、別紙目録平均賃金欄記載の通りであつて、賃金は、毎月十五日に、前月二十六日から十日までの分を、毎月末日に、十一日から二十五日までの分を、支払われる定である。

(四) 申請人等は、解雇無効確認等の本案訴訟を提起せんとする者であるが、申請人等は全く手から口えの生活をしているのだから悠々と本案訴訟の攻撃防禦をつくしていたのでは到底生きて判決を見ることが難しく、かかる急迫な強暴を避けるため、申請の趣旨記載の仮の地位を定める仮処分を求めるため、本申請に及んだ。」

と述べた。(疏明省略)

被申請人訴訟代理人は、「申請人等の申請を棄却する」との判決を求め、答弁として、

「申請人等主張事実中

(一)記載の事実

(二)の(2)(イ)記載の事実

(三)記載の事実

は認めるが、その余の事実は否認する。

(1) 本件解雇は、

(イ)  本件解雇十二名が過大な賃金値上の要求をして被申請人の命ずる粘土運搬の作業を拒否したこと。

(ロ)  被申請人において、粘土運搬の作業以外に本件解雇十二名を就労せしめる仕事がないこと。の二個の理由のためになされたものであるから、不当労働行為たる解雇ではない。

即ち、被申請人は、大塩塩田改造工事現場において申請人等を塩田改造作業に従事せしめていたものであるが、昭和三十年八月十七日より本件解雇十二名を、大塩塩田四番浜で粘土運搬の作業にトロ車一台運搬について金五十円の出来高払賃金の約定の下に従事せしめたところ、本件解雇十二名は、昭和三十年八月二十日、被申請人に対しトロ車一台運搬について金十円の賃金値上の要求をした。しかし、右賃金値上の要求は過大な要求であるので、被申請人はこれを拒否したところ、本件解雇十二名は粘土運搬の作業を拒否したのである。しかるところ、被申請人において粘土運搬の作業以外に本件解雇十二名を就労せしめる仕事がなかつたのでやむなく本件解雇をしたのである。

(2) 被申請人は、昭和三十年八月二十日と同月二十二日姫路土建労働組合長である申請人牧野繁実と、本件解雇について十分に協議したから、本件解雇は労働協約に違反しない。

(3) 本件解雇は、正当な経営権の行使としてなされたものであるから、解雇権の濫用でない。

仮りに本件解雇が無効であるとしても、申請人等は就労を拒否しているのであるから、被申請人は申請人等に対し賃金支払義務はない。」

と述べた。(疏明省略)

理由

申請人等主張の事実中

(一)記載の事実

(二)の(2)(イ)記載の事実

(三)記載の事実

は被申請人の認めるところである。

よつてまず本件解雇が不当労働行為たる解雇か否かについて判断する。

成立について争ない甲第一号証に、証人藤原正雄の証言、申請人牧野繁実本人訊問の結果、被申請人藤原菊二本人訊問の結果(第一回第二回)の一部を綜合すればつぎの事実が認められる。

(1)  被申請人は、大塩塩田改造工事現場において申請人等を塩田改造作業に従事せしめていたが、昭和三十年八月十七日より、本件解雇十二名を、大塩塩田四番浜で粘土運搬の作業にトロ車運搬一台について金五十円の出来高払賃金の約定の下に、従事せしめた。もつとも本件解雇十二名全員がトロ車運搬の作業に従事するのでなく、約半数の者がトロ車運搬の作業に従事し、他の半数の者は雑役に従事したのであるが、同月二十日午後三時頃、大塩塩田改造工事現場において本件解雇十二名を代表して、姫路土建労働組合組合長牧野繁実が被申請人に対し、トロ車運搬一台について金十円の賃金値上の要求をした。これに対し被申請人は賃金値上の要求を拒否した。翌二十一日は、被申請人は病気のため大塩塩田改造工事現場に来場せず、申請人等は雑役に従事した。翌二十二日朝大塩塩田改造工事現場において本件解雇十二名が被申請人に対し賃金値上の団体交渉の申入をしたのに対し、被申請人は、粘土運搬の作業以外の仕事は過剰人員で、本件解雇十二名を就労せしめる仕事がないという理由を記載した書面を以て、本件解雇の意思表示をなすとともに九月二十一日まで休業を命じたのであるが、その席上被申請人は賃金値上の如き組合運動をする者はやめてくれと言明した。

(2)  本件解雇十二名は本件解雇当時、被申請人に雇傭されている労働者約九十名中、姫路土建労働組合の組合員である者の全部である。

(3)  本件解雇当時、被申請人は、本件解雇十二名以外に約八十名(いずれも一ケ月乃至二ケ月の期間を限つた臨時土工にして、内女約二十名)を雇傭していて、昭和三十年十二月中頃約二十名に減員するまで被申請人の都合により、解雇したものはない。

被申請人藤原菊二本人訊問の結果(第一回第二回)中、右認定に反する部分は信用し難い。

以上認定の事実を綜合すれば、本件解雇は、本件解雇十二名が姫路土建労働組合員であること、本件解雇十二名が賃金値上の要求という労働組合の正当な行為をした者であることを理由としてなされたものと認めるのが相当である。被申請人は、本件解雇について二個の理由をあげているけれどもまず(イ)の理由は、たとえ客観的にその経済的要求が実現不可能であるとしても、労働者の経済的地位の向上を目的とする限り、それは結局団体交渉の段階において合理的な妥協点を求めているものとして、正当な争議目的であり、集団作業拒否は正当な争議手段であるから、被申請人の主張の理由によつては解雇しえないこと明かである。

つぎに(ロ)の理由は前記認定事実に照し、本件解雇の決定的な原因をなすものと認めることはできない。

従つて、本件解雇は、解雇無効の他の争点について判断をなすまでもなく、不当労働行為たる解雇として、無効であり、申請人等は、被申請人の従業員たる地位を保有し、被申請人に対し、別紙目録平均賃金欄記載の平均賃金を請求することができる。

被申請人は、仮りに本件解雇が無効であるとしても、申請人等は就労を拒否しているから、賃金支払義務はない、と主張するけれども、被申請人は、現在に至るまで本件解雇が有効であるとして、申請人等の就労を拒否しているのであるから、この点の被申請人の主張は理由がない。

解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、賃金生活者の著るしい苦痛であり速かに、その地位を保全させなければ回復すべからざる損害を受けること明かであるから、本件解雇の効力を停止する仮処分を求める申請を認容する。

しかし、本件仮処分申請中、賃金の支払を求める部分については、申請人牧野繁実被申請人藤原菊二(第二回)各本人訊問の結果によれば、既に発生した賃金債権(昭和三十年九月二十六日から本件口頭弁論終結の時までの分)中、申請人等が各金一万円の支払を求める限度においてのみ、即時支払を命ずる緊急の必要あるものと認めるのが相当であるから、右の限度においてこれを認容し、その余の部分は、支払を命ずる緊急の必要が認められないから、これを棄却する。

よつて訴訟費用について民事訴訟法第九十二条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小西勝)

(別紙)目録

平均賃金

毎月十五日支払額

毎月末日支払額

氏名

四二五・〇〇

六、三七五・〇〇

六、三七五・〇〇

増田忠雄

二九五・〇〇

四、四三七・〇〇

四、四三七・〇〇

牧野博

四八八・〇〇

七、三二〇・〇〇

七、三二〇・〇〇

北田実

(以下省略)

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